頭痛とは
頭痛は多くの方が経験のある、大変一般的な症状の一つです。大きく一次性頭痛と二次性頭痛に分けられます。一次性頭痛とは、病変と関係しない頭痛のこと。二次性頭痛は何らかの病気が原因で起こる頭痛のことを言います。
注意しなければならない頭痛は二次性頭痛で、脳腫瘍、脳出血、くも膜下出血など、生命に関わる病気が原因となっていることがあります。約1割程度が二次性頭痛と言われておりますが、専門的な治療が必要となる、いわゆる「怖い頭痛」です。特にこれまで経験したことのない激しい、かつ突然の頭痛、頻繁に頭痛を繰り返す、徐々に強くなる頭痛、朝頭痛で目が覚める、手足の麻痺、しびれ、呂律障害などを併発した、などの症状があれば、お早めに当クリニックを受診してください。
当院の「頭痛外来」では、頭痛に特化した専門的な診療を行います。慢性的な頭痛や頭痛の原因を特定し、患者さんの症状や状態に応じて、薬物療法や生活習慣の改善、ストレス管理などを行ってまいります。
一次性頭痛とは
頭痛を訴えて来院される方の多くは一次性頭痛の患者さんです。つまり脳の病気を伴わない頭痛です。命に関わるなど重篤ではありませんのでそれほど心配することはありません。しかし多くの場合慢性化し、繰り返すことが多く、生活上支障をきたすことがある点で問題となります。主に3つ(片頭痛、緊張性頭痛、群発頭痛)に分けられますが、これらを併せた混合性頭痛もあります。以下、一次性頭痛の中でも多い、3つの頭痛について説明いたします。
片頭痛
片頭痛は頭の中の血管が拡張することで起きる頭痛のことで、典型例では片側あるいは両側のこめかみから目にかけてズキズキとした痛みを感じます。頻度は、数か月に1回程度の方から月に10回以上発症する患者さんもおられ様々です。数時間~2、3日程度、ずきんずきんとした拍動性の、比較的強い痛みが続き、吐き気などを伴うことが多いのが特徴です。また運動をしたり、下を向いたり、光を見たり、音を聞いたりすると増悪することも特徴の一つです。暗い部屋で静かにじっと寝ていたい、という頭痛は片頭痛の可能性が高いです。したがって日常生活、お仕事に支障が出ることの多い頭痛であり、適切なコントロールが必要です。頭痛を発症する前に、非常に肩が凝る、気分不快を感じる、目にちかちか光が走る、もやもやが見えて視界の一部がうまく目が見えなくなる(これらの目の症状を閃輝暗点といいます)、なんか頭痛がきそうな予感がする、などの予兆・前兆を伴う患者さんも多くいらっしゃいます。なお発症のメカニズムは完全に明らかになっていません。
原因については、現時点では特定できていませんが、過労や睡眠不足といった肉体的ストレス、精神的なストレス、多量の飲酒、チラミンを含む食品(ワイン、チーズ、レバー、チョコレートなど)を食べる、月経によるホルモンバランスの変化(女性)、気圧の変化とが誘因となります。女性の患者さんが多いのも特徴で、なかでも30~40代でよく見受けられます。 お子さんにもみられ、頭痛を繰り返している場合には可能性があります。30歳代でピークを迎え、多くの場合、更年期を迎える50歳代前半で消失することが多い頭痛です。
治療はお薬を使います。トリプタン系薬剤(イミグラン、マクサルトなど)を用いることが一般的ですが、年齢、症状、妊娠の有無、授乳中である、などの状況に合わせて適切な薬を選択する必要があります。同じ薬でも、個別に合う、合わないがありますので、頭痛のコントロールについては当院にご相談ください。
エムガルティ
日本国内で20年ぶりに発売された、新しい片頭痛治療薬「エムガルティ®」(一般名ガルカネズマブ)を使った治療が、当院でも可能になりました。簡単にまとめましたのでご参照下さい。
エムガルティとは
- 月1回注射する、片頭痛の「予防薬」です。発作回数を減らし、発作時の痛みも軽減作用があります。
- 片頭痛の「予防薬」とは、鎮痛を目的とするのではなく、頭痛の回数を減らす作用があるお薬のことをいいます。鎮痛薬ではありませんが、頭痛発作時の頭痛の強度が軽減できることもわかっています。
- 片頭痛の「予防薬」として、本邦ではすでにミグシス(ロメリジン)、インデラル(プロプラノロール)、デパケンR・セレニカR(バルプロ酸)、トピナ(トピラマート)、トリプタノール、呉茱萸湯などが処方可能です。これらの予防薬が無効、あるいは副作用などで投与ができない場合にエムガルティを投与できます。
- 注射薬のため、月1回の通院が必要です。ただし既存の予防薬は毎日内服する必要があります。
エムガルティの効果は
- 臨床試験では慢性片頭痛や他の予防薬の効果が不十分な例で、片頭痛の日数が半減しています。
これまでの報告では平均で月の片頭痛の日数が8.6日から3.6日分減った、とのことです。 - 多くの例で使用開始翌月には効果が出ており、即効性が期待できます。
- 臨床試験で6カ月間の使用で片頭痛の日数が減った人の割合は下記の通りとなっています。
50%減:59% ・75%減:33% ・100%減:11%。
片頭痛発作がゼロになることは、いままでの予防薬では難しいとされています。
エムガルティの作用機序
CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチドという物質)は頭の硬膜や三叉神経にあり、片頭痛発作時の血管拡張や炎症反応の直接の原因物質です。エムガルティは、このCGRPの働きをブロックすることで、発作を減らし、頭痛を軽くします。
薬理学的な名称は「ヒト化抗CGRPモノクローナル抗体製剤」といいます。「モノクローナル抗体製剤」とは、分子生物学的に「本来の目的のみを達成する極めて精密に設計された薬剤」であり、他に余計な作用を起こしにくいことが特徴です。つまり副作用が極めて少なく、非常に高い効果を見込めるのがエムガルティなのです。ただしどうしても注射が必要となります。
- 「モノクローナル抗体製剤」は細胞培養などのバイオテクノロジーを利用して生産する必要があり、普通の薬と比べて、どうしても高価になってしまいます。
- 「モノクローナル抗体製剤」は他の分野では、抗がん剤、免疫抑制剤、アレルギー薬でも開発が進んでいます。
当院でのエムガルティの治療
- まずは当院を受診し、片頭痛かどうか、診察を受けてください。既に当院で片頭痛の治療を受けられている方は、外来でご相談下さい。
- ガルカネズマブ最適使用推進ガイドライン(厚生労働省)を遵守するため、以下は必須です。
- ①医師に片頭痛と診断されていること。
- ②片頭痛が過去3か月の間で、平均して1か月に4日以上。
- ③従来の片頭痛予防薬の効果が不十分、または内服の継続が困難な場合。
- ④妊娠中・授乳中は、十分検討した上での「慎重投与」可。
- ⑤18歳未満の小児は「使用不可」。
エムガルティの投与の実際
- 初回は2本注射し、翌月から、毎月1本ずつ注射します。
- 手、足、腹部のいずれかに注射します。
- 外来で医師または看護師が、「オートインジェクター」を使って皮下注射を行います。
費用について
- 保険適応です。3割負担の場合、1本あたり13,550円(元の薬価は45,165円)。
- 初月は2本使用します。
- その他、通常の再診料、注射処置料などがかかります。
主な副作用
- 注射部位の痛みや腫れ以外に目立った副作用はないようです。
- 注射部位疼痛:10.1%、注射部位の腫れ14.9%
- めまい、便秘、じんま疹: いずれも1%未満
アジョビ
エムガルティ同様に抗CGRP抗体製薬です。
エムガルティと異なる点は、
- 1回目から1本の接種(エムガルティは初回は2本)でいい。
- 4週間に1回(エムガルティは1か月に1回)接種を行います
- 唯一3本同時接種が可能(3か月に1回行いますが、最初の数回は1本ずつの接種をお勧めしております)
- 1本約12,410円(3割負担の場合。元の薬価は41,356円) 。
アイモビーク
エムガルティ、アジョビと同様にCGRP関連抗体製剤ですが、作用機序が異なります。CGRPは脳内の動脈の表面にある「受容体」にくっつくことで、動脈を拡張させ、炎症を引き起こし、片頭痛を発症させます。アイモビークはその「受容体」に対する抗体製剤です。
- アジョビと同様1回目から1本でいい。
- 4週間に1回接種を行います
いずれの抗CGRP関連抗体製剤も注射部位の発赤、疼痛以外はほとんど副作用がありません。
また、10人に1人は片頭痛がほとんどなくなってしまう、など有効性が高く、非常に期待できる予防薬といえます。
さらに3剤ともに、自己注射も認められており、適切な指導のもと、ご自宅で接種することも可能です。
まずは6か月続けましょう。エムガルティが無効ならアイモビーク等へ変更も可能です。
患者さんの声
- 人生が変わった。
- 外出、友人との約束が楽しくなりました。
- 頭痛のことを毎日考えていました。それがない人生なんて、初めてです。
- 家族との時間が増えました。
投与についてはまずは医師にご相談ください。
緊張性頭痛
緊張性頭痛は、長時間同じ姿勢で居続ける(デスクワーク など)ことによる血行障害をはじめ、肉体的・精神的ストレス、頚椎症や肩こりなどが原因となって、後頭部から首にかけての筋肉が緊張して発症する頭痛です。日本人のなかでは最も多い頭痛です。
主な症状は、頭の周囲が強く締めつけられたような痛み、後頭部がつかまれるような、あるいは押されるような痛み、慢性的に頭が重い感じがする、頭がぼーっとする、思考力がない感じ、などです。しかし寝込んだり、吐いたりすることはほとんどなく、片頭痛に比べて程度は弱いのが特徴です。一度発症すると数時間~数日、もしくはもっと長期にわたって続くようになります。また人によっては、めまいや立ちくらみ、耳鳴りなどがみられることがあります。
一般的な鎮痛薬を用いて治療することが多いのですが、適切な薬の選択が重要となります。また原因である肩こりを如何に、軽減していくか、も重要なポイントとなります。当院では電気治療を用いた理学療法も行っています。ぜひご相談ください。
群発頭痛
群発頭痛とは、発症メカニズムが完全に特定されていませんが、頭部の血管拡張、三叉神経(頭や顔の感覚の神経)が関わっていると言われています。何らかの原因によって血管が拡張してしまうことで、左右どちらかの目のくぼみからこめかみの間にかけて耐え難いほどの激痛に襲われるようになります。リスク要因・誘因としては、喫煙・飲酒、急激な気圧の変化などが挙げられています。
群発頭痛は目の奥がえぐられるように痛むのが特徴で、痛い方の目が充血したり涙が出たり、顔がほてる、発汗するなどの自律神経症状を伴うことがあります。1度起きると数日間繰り返し、その間「群発」するのが特徴です。1ヵ月ほど続く場合もあり、痛みが出る頻度は1日1回、1回あたり15分~3時間ほど持続します。その後軽快しますが、頭痛のないときは全くありません。このパターンを数か月~数年のサイクルで繰り返すことが多いようです。
この頭痛は20~40歳代の男性に多くみられるのが特徴で、男性患者は女性の3~7倍いると言われています。つまり働き盛りの年代に多く、痛みが強く、仕事にも支障をきたすため、適切なコントロールが重要です。片頭痛の薬を用いますが、予防薬も併用することがあります。ぜひご相談ください。
二次性頭痛とは
脳の病気を発症したことで起きる頭痛のことで、症候性頭痛とも呼ばれています。脳血管障害(くも膜下出血、脳出血、脳梗塞)、脳腫瘍、脳炎、髄膜炎、頭部外傷などが原因となって起きる頭痛であり、「怖い頭痛」です。
これまで脳に関する病気というのは一度も罹ったことはないものの、最近になって強い頭痛がみられるようになった(つまり中年以降になって初めての頭痛)、手足にしびれや麻痺がある、さらに発熱や嘔吐を伴う、突然激しい頭痛を発症した、という場合、重大な脳の病気を罹患していることも考えられるので、以下のような症状に心当たりがあれば、お早めに当クリニックをご受診ください。
- 突然の頭痛に見舞われた
- これまで経験したことのない頭痛に襲われている
- 頭痛の様子がいつもと異なる気がする
- 頭痛の頻度と程度が増している
- 50歳を過ぎてから現れた初発の頭痛である
- 神経の脱落症状がみられる頭痛
- がんや免疫不全の病気に罹患している患者さんの頭痛
- 精神症状がある患者さんの頭痛
- 発熱・項部硬直・髄膜刺激症状がみられる頭痛
- 意識障害を伴う
など